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音楽が嫌いな人はいる?興味がない、嫌いになる原因を解説

「音楽が嫌い」「聴いても何も感じない」という人は、意外と少なくありません。多くの人が日常的に音楽を楽しむ一方で、興味を持てなかったり、苦手意識を抱いたりする人もいます。その背景には、過去の経験や性格、音への感受性の違いなど、さまざまな理由があります。この記事では、音楽が嫌い・興味がないと感じる人の特徴や原因、そして音楽との付き合い方を少し楽にするヒントを紹介します。

saku
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音楽が嫌い、聴かないという人がいてもいい

音楽は世界の共通語だと言われます。多くの人にとって、音楽は喜び、安らぎ、興奮をもたらす普遍的なエンターテイメントであり、人生のサウンドトラックのようなものです。しかし、世の中には、この共通語が理解できない、あるいはむしろ苦痛だと感じる人々が存在します。
もしあなたが「どうして自分だけ、みんなが好きな音楽を楽しめないんだろう」と悩んだり、「騒音は苦手だが、静かな空間が好き」と感じていたりするなら、あなたは決して一人ではありません。
この記事では、そんな「音楽嫌い」の感情や現象の背後にある、感覚的、神経学的、そして社会的な多様な原因を、最新の研究を基に深く掘り下げていきます。そして、最後に、音楽を楽しむことだけが人生ではない、というポジティブなメッセージをお届けします。
著者コメント
私もかつて、特定の音楽ジャンルに対して強い嫌悪感を持っていました。それは「好み」の問題だと思っていましたが、研究を進めるうちに、嫌悪感の裏側には、私たちの脳や経験の非常に個人的な側面が隠されていることを知りました。この問題は、「好き嫌い」の枠を超えた、自己理解のための重要な手がかりなのです。
音楽は本当に世界共通の楽しみ?

私たちは、世界の音楽配信サービスが前年比11%の成長(2024年時点)を遂げているような音楽ブームの真っただ中に生きています。しかし、このような状況下でも、一部の人々は音楽を積極的に避けたり、特定の音が原因で社会生活に困難を感じたりしています。
音楽に対する私たちの態度は、好きか嫌いかの二択ではありません。中には、「嫌いな音楽はないが、あえて聴きたい音楽もない」という人もいるでしょう。また、特定のジャンルやアーティストに対して強い嫌悪感を抱くこともあります。
NLM(米国国立医学図書館)などが主催するPubMed Central(PMC)の行った研究では、人々が嫌いな音楽について言及する際、その対象として最も多く挙げられたのは「音楽スタイル (44.4%)」であり、次いで「アーティスト (29.1%)」、「ジャンル (13.1%)」と続きました。このデータは、「音楽」という大きな括りではなく、その構成要素や表現方法こそが、嫌悪感の引き金になっていることを示しています。
| 嫌いな対象 | 割合 (平均) | 解説 |
| 音楽スタイル (Musical Style) | 44.4% | リズムの複雑さ、音の濁り、特定の演奏技法など、構造的な特徴。 |
| アーティスト (Artist) | 29.1% | その人物やブランドに対するイメージ、パフォーマンスの仕方など。 |
| ジャンル (Genre) | 13.1% | 特定の音楽カテゴリ(例:ヘヴィメタル、クラシック)全体。 |
| 特定の楽曲 (Specific Pieces) | 6.1% | 個々の曲に対する嫌悪感。 |
| 個々の楽器 (Individual Instruments) | 3.9% | 特定の楽器の音色(例:サックス、アコーディオン)が不快。 |
| 音楽的特徴 (Musical Characteristics) | 2.8% | テンポ、音量、和声など、より抽象的な要素。 |
| 音楽ベースのTV番組など (Musical Formats) | 0.7% | 音楽が提供されるメディアの形式。 |
音楽が嫌いになる原因:感覚の処理や脳の機能

音楽嫌いの背後には、ただの好みでは片付けられない、感覚処理の特性や脳の機能、そして過去の経験が複雑に絡み合っています。ここでは、音楽に対するネガティブな感情や拒否反応を引き起こす主な原因を掘り下げて解説します。
音楽への反応は、私たちの脳内で音の情報を処理し、それを感情や報酬と結びつけるメカニズムによって成り立っています。このメカニズムに変調をきたすと、音楽が嫌いという状態につながります。
音楽アネドニア (Musical Anhedonia):音楽快感消失症
これは、音楽を知覚する能力には問題がないのに、音楽から快感を得られないという、極めて特異的な状態です。
- メカニズム: 研究によると、音楽アネドニアの人は、音の情報を処理する聴覚野と、快感や報酬を司る脳の領域(腹側線条体や側坐核など)との機能的接続が低下していることが示されています。簡単に言えば、音楽は聞こえているけれど、それが脳の喜びスイッチにうまく伝わらない、という状態です。
- 重要な点: これは、うつ病によるアネドニアや音楽が認知できない障害とは区別される、音楽に特化した現象です。
聴覚過敏 (Hyperacusis):音が苦痛に変わる現象
聴覚過敏は、多くの人が気にならない日常の音に対して、強い苦痛や不快感を覚えてしまう状態です。これは、特定の音楽が嫌いというよりも、音そのものが嫌い、騒がしい場所が苦手といった感覚に直結します。
- 症状: 「音が頭に響く」「割れるように聞こえる」といった感覚や、耳や頭の痛み、めまい、そして音による極度の疲労感を引き起こします。
- 背景: なんらかの理由で、音の情報を処理する脳の機能に変調が生じ、一般的な音量でも音を過剰に受け取ってしまうために起こります。内耳の障害、聴神経の過剰反応、ストレス、疲労などが原因となり得ます。
- 発達障害との関連: 自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達障害を持つ人は、感覚過敏の特性を伴うことが多く、脳のフィルター機能がうまく働かず、必要な情報と不要な情報を取捨選択できないため、音の刺激を過剰に受け取ってしまいます。
著者コメント
聴覚過敏による音楽嫌いは、感覚の違いであって、意思や性格の問題ではありません。もしあなたが「騒がしい場所は地獄だ」と感じているなら、それはあなたの脳が非常に敏感に音を処理している証拠です。これは、自分の特性を理解し、生活環境を調整するための重要な情報だと捉えましょう。
先天性アミュージア (Amusia):音程が理解できない
アミュージアは、生まれつき音程(ピッチ)を正確に処理することが困難な状態です。音程の聞き分けが難しいため、音楽が単なる「雑音の羅列」や「不快な響き」に聞こえてしまうことがあります。
- 影響: 音程に関する処理は難しいものの、アミュージアを持つ人が、音楽の感情的なコンテンツや視覚的注意などの他の認知領域に支障をきたすことは少ないことが示されています。つまり、音楽を聴いて「心地よさ」は感じられなくても、その音楽が持つ感情的な表現(悲しい、嬉しいなど)は理解できる可能性があります。
音楽が嫌いになる原因:人間関係や過去の経験

人間関係と過去の経験の影響
研究では、特定の人間関係が、音楽の好悪の発達に強い影響力を持つことが示されています。
- 例えば、嫌いな教師が強制的に聴かせた音楽、苦手な人がいつも聴いていた曲、あるいは特定のつらい出来事と結びついてしまったメロディーなどは、それ自体がネガティブな記憶のトリガーとなり、音楽そのものへの嫌悪感につながることがあります。
- 音楽は感情の記憶を呼び起こす力が強いため、過去の経験と切り離すことが難しいのです。
音楽の授業が引き起こすトラウマ
多くの人にとって、音楽嫌いは、音楽そのものよりも、学校の音楽の授業でのネガティブな経験に根差していることが多いと言われます。幼少期や思春期において、音楽が楽しむもの」から評価され、合否をつけられるものへと変わってしまう瞬間が、強い心理的抵抗感(トラウマ)の引き金になります。
①クラスメイトの前での歌唱テストの重圧
最も共通するトラウマの原因は、人前で一人ずつ歌唱や楽器の演奏を披露させられるテストです。
あなたも、こんな疑問を感じたことはないでしょうか?「数学のテストで、なぜか一人ずつ前に出て問題を解かされるなんてことはないのに、どうして音楽だけは皆の前で歌わされるんだろう?」
発表が苦手な生徒にとって、この公開パフォーマンスは、プレッシャーや恥ずかしさ、屈辱を伴うものです。顔を真っ赤にして、声が震えながら歌う子の姿は、まさにその苦痛の深さを示しており、音楽室が「ダルい」場所、あるいは「憂鬱」な場所として記憶されてしまう原因となります。
②指導方法や選曲
もう一つの大きな要因は、指導方法や教育的な音楽を歌わせることにもあります。
みんなの前で上手く歌えないと、幼い心に「自分はダメだ」という強烈なネガティブなメッセージを植え付けます。このような経験が、「音楽キライ」という生涯にわたるトラウマを本格的に形成してしまうのです。
社会性と音楽
音楽は、しばしば社会的なステータスと結びつけられます。特定の音楽ジャンルに対する嫌悪感は、しばしば社会的なアイデンティティや世代間の価値観の衝突から生まれます。
- ある研究では、クラシック音楽が、特に高学歴の若者の間で「嫌い」とされる傾向が増していることが指摘されました。彼らはクラシック音楽を「親や祖父母のハイステータスな音楽」と関連付け、それに反発する形で嫌悪感を示す傾向があります。
- 逆に、教育水準の低い層ではクラシック音楽への嫌悪感が減少しており、クラシック音楽はかつての「階級に基づいた音楽」から、よりアクセスしやすいものへと変化している側面もあります。
- このように、特定の音楽を嫌うことは、自分はこういう人間ではないというアイデンティティの表明手段にもなり得るのです。
音楽嫌いの先にある、あなたらしい人生
ここまで、音楽を嫌い、あるいは苦手だと感じる背景にある多様で複雑な原因を見てきました。感覚的な特性、脳の機能、そして過去の経験や社会的な文脈、そのどれもがあなたのせいではありません。
この現象を深く理解することは、音楽を好きになるためのステップではなく、「自分という人間をより深く知る」ためのステップです。
音楽を聴かない自由
音楽が普遍的な存在だとしても、それを楽しむことが「義務」である必要は全くありません。
人生には、喜びをもたらすものが他にもたくさんあります。絵画、文学、科学、料理、スポーツ、自然の音、そして大切な人との静かな会話。音楽への関心が薄い分、あなたは他の領域に強い情熱を注げる可能性を秘めています。
著者コメント
現代社会は、BGMやながら聴きであふれていますが、本当に必要なのは心の落ち着きかもしれません。意識的に音の刺激を遮断し、自分と向き合う時間を持つことは、創造性や集中力を高める上で非常に重要です。音楽嫌いは、ある意味で静けさの価値を知っている、とも言えるのではないでしょうか。
理解から生まれる対処法と選択肢
もしあなたの音楽嫌いが、聴覚過敏のような感覚的な特性に起因している場合、それは改善のための具体的な選択肢があるということです。
| 原因のタイプ | 対処法・解決のヒント |
| 聴覚過敏 (音が苦痛) | 専門医(耳鼻咽喉科、心療内科)の受診、音響療法、認知行動療法、環境調整(ノイズキャンセリング製品の活用) |
| 音楽アネドニア (快感の欠如) | 快感を伴わなくても、集中力やリラックス効果を求めて音楽をBGMとして活用する選択肢。無理に楽しもうとしない。 |
| 過去の経験/トラウマ (嫌な記憶との結びつき) | 過去の音楽を避け、全く新しい、ニュートラルなジャンルを試しに聴いてみる。その音楽を新しい、ポジティブな経験と結びつける。 |
まとめ
音楽が嫌いと感じるのは、決して珍しいことではありません。人によって感じ方や心地よさの基準は異なり、無理に音楽を好きになる必要もありません。大切なのは、自分が心穏やかでいられる時間をどう過ごすかということ。もし興味を持てそうなジャンルがあれば、少しずつ触れてみるのも一つの方法です。音楽との距離感は、人それぞれで良いのではないでしょうか。


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